アントニオ・メネセス 来日直前インタビュー 聞き手:寺西 肇(音楽ジャーナリスト)
Q.)メネセスさんとプレスラーさんによるベートーヴェンのチェロ・ソナタのディスク(英AVIEレーベル)では、第1番の冒頭、ユニゾンで聴こえてくるチェロとピアノの音に、いきなり驚かされました。まるで2つが同じ楽器のように、発音やフレージング、アーティキュレーションがぴたりと見事に一致しています。どうして、こんなことができるのでしょうか。
A.)私たちは、まさにそのことを実践しようと演奏しています。つまり、その作品がひとつの楽器のために書かれたかのように、あたかも錯覚させるかのごとく演奏するということをね。ピアノ・トリオにあっても、私たちはまったく同じく、ひとつの楽器のように演奏することを常に心がけています。これは、「ピアノが弦楽器の特徴を模倣しなければならない」ということを意味しているし、その逆もまた然り(弦楽器がピアノの特徴を真似ることも必要)なのです。
Q.)チェロとピアノのデュオ演奏にあたって最も大切な点とは?
A.)「楽器同士の対話」です。これは、他のあらゆる室内楽においてもあてはまることですけどね。
Q.)そのお答えをいただいた上で、あえてお聞きしますが、ピアノ・トリオがデュオと根本的に異なる点は、何なのでしょうか。
A.)やはり、ヴァイオリンという楽器の存在でしょうね。これによって、弦楽器の響きにさらなる輝きがもたらされます。
Q.)ベートーヴェンのチェロ・ソナタ、特に今回演奏する第3番の位置づけとは。
A.)この編成による楽曲のうちでも、最も美しく、完璧であり、そのことが理由で、聴衆からもとても愛されている作品と言えるでしょうね。
Q.)同じくステージで取り上げる、バッハの無伴奏チェロ組曲は、メネセスさんにとってどのような存在ですか。最初に取り組まれたのは、いつのことでしたか。
A.)無伴奏組曲を演奏すればするほど、私はこの曲集により多くの尊敬の念を感じます。私は音楽人生を通じて、これらの作品を演奏し続けてきましたが、いまだにこれほど難しい曲に出会ったことがありません。最初に演奏したのは13歳の時、ごく最初のリサイタルで第3番を弾きました。それ以来、この曲は私とずっと一緒です。
Q.)それで、今回も一番付き合いの長い(笑)、第3番を取り上げますね。
A.)理由は簡単。私が今シーズン、特に取り組んでいる曲だからです。それに、この曲の各楽章はどれもすばらしく、それぞれ個性的です。
Q.)無伴奏チェロ組曲は楽器を替えて2度、録音されています。特に新しい録音は、オリジナル楽器的な小気味良さと、モダンのチェロの豊かな響きが共存した演奏です。あなたは、オリジナル楽器の演奏を参考にすることがありますか。また、今回の日本公演では、アプローチの上で、どこか違う点はあるのでしょうか。
A.)ピリオド楽器のアプローチは、とても参考にしています。それに、実は今回の日本公演では、バロック・ボウ(弓)を使おうと思っているんですよ。このことで、私のアプローチはよりバロック的なものになることでしょう。
Q.)メネセスさんからご覧になって、プレスラーさんとは、どのような演奏家でしょうか。
A.)プレスラーさんはあらゆる時代を通じて、最も偉大なピアニストであり、最も偉大な室内楽奏者でもあります。
これほど長い(もう12年にもなりますが)期間にわたって、彼と一緒に音楽を続けて来られたのは、私にとって、とても意義のあることだったことは、間違いないことですね。
Q.)今後、お2人で取り組む新たな挑戦とは。
A.)私たちは今シーズン、新たにフレデリック・ショパンとセザール・フランクのソナタの両方に取り組みことになっています。とても楽しみにしているんですよ。日本に行く前に、ヨーロッパで何度か2人でデュオ・リサイタルを予定しています。
Q.)ご自身にとって「音楽」とは何でしょうか。
A.)音楽とは、かつて人類が創造した中でも、最も素晴らしいコミュニケーションの方法です。それは、人間が感じ取れる、あらゆる種類の感情を表現することができるのです。私は子供のころ、このことに気が付いて以来、何年もの時間を経た現在でも、音楽を通じてのコミュニケーションの可能性をどんどん発見し続けているんですよ。